映画『10人の泥棒たち』を観終わったあと、最も不可解な人物として印象に残るのが、キム・ユンソク演じるマカオ・パクではないでしょうか。
彼は韓国と香港の泥棒たちを集め、時価2,000万ドルとされるダイヤモンド「太陽の涙」を盗む計画を持ちかけます。
ところが、いざ計画が実行されると、仲間を出し抜いて自分だけがダイヤを手に入れてしまいます。
さらに、危険人物として恐れられるウェイ・ホンとの直接取引に臨み、結果的に自らの命まで危険にさらします。
なぜ、そこまでする必要があったのでしょうか。
結論からいえば、マカオ・パクの真の目的は金儲けではなく、父親を亡き者にしたウェイ・ホンへの復讐だったからです。
そして、もう一つ彼の行動を左右していたのが、かつての恋人ペプシへの未練でした。
この2つの感情を理解すると、一見すると不可解だったマカオ・パクの行動に、ある程度の一貫性が見えてきます。
今回は、韓国語・英語圏の作品資料やチェ・ドンフン監督のインタビューも参考に、マカオ・パクの本当の目的と、劇中で明言されなかった心理を掘り下げます。
※以下、映画の結末までの重大なネタバレを含みます。
マカオ・パクとは何者?実は最初から目的が違っていた男
マカオ・パクは、韓国と香港の泥棒たちをまとめる凄腕の犯罪プランナーです。

引用 https://webkay.com/thethieves.html
かつてポパイやペプシとチームを組んでいましたが、4年前の金塊強奪事件を境に姿を消し、仲間からは裏切り者だと思われていました。
そんな彼が再びポパイたちの前に現れ、マカオのカジノから希少なダイヤモンド「太陽の涙」を盗む計画を提案します。[出典1・2]
しかし、マカオ・パクには仲間に明かしていない秘密がありました。
彼は幼い頃、父親がウェイ・ホンに殺害される現場を目撃していたのです。
そして、その殺害事件に関係していた宝石こそが、今回の強奪対象である太陽の涙でした。[出典3]
つまり、ほかの泥棒たちにとっては人生を変える大金を得るための仕事でも、マカオ・パクにとっては過去の因縁に決着をつけるための仕事だったわけです。
この目的の違いこそ、映画全体を理解する最大のポイントだと考えられます。
なぜマカオ・パクは太陽の涙を盗む際に仲間全員を裏切ったのか?
今回の映画で最も疑問が残るのは、マカオ・パクが仲間たちに偽の強奪計画を実行させ、自分だけが本物のダイヤを盗み出したことです。
仲間たちが狙っていた金庫には、最初から太陽の涙がなかった
当初の計画では、ティファニーが滞在するカジノのスイートルームに侵入し、金庫から太陽の涙を盗み出すことになっていました。
イェニコールとザンパノが外側から侵入経路を確保し、ポパイ、ペプシ、ジュリーが金庫を開けるという役割分担です。
ところが、実際に金庫を開けてみると、目的のダイヤモンドは見つかりません。
その頃、マカオ・パクは老人の従業員に変装し、別の場所に保管されていた太陽の涙を盗み出していました。[出典3]
要するに、仲間たちが命懸けで実行していた計画そのものが、本来の目的を達成するための陽動作戦だったのです。
仲間の行動が警備システムを突破するための条件になっていた
では、マカオ・パクは最初から一人で盗めばよかったのではないでしょうか。
ここで重要になるのが、仲間たちに割り当てられた仕事です。
作戦中、ジョニーとアンドリューは警備室を制圧し、監視カメラや電源を停止させます。
その結果、カジノのセキュリティーが作動し、出入口が封鎖されることになります。
マカオ・パクは、この混乱を利用して保管場所にアクセスし、太陽の涙を盗み出したと解釈できます。[出典3]
つまり、仲間たちは単なる囮ではありません。
マカオ・パクが単独では実現しにくい状況を作り出すために、それぞれが必要な役割を担っていたのです。
なぜ本当の計画を仲間に教えなかったのか?
ここからは筆者の考察です。
最大の理由は、マカオ・パクが仲間たちを全面的には信用していなかったからではないでしょうか。
実際、劇中ではほかの泥棒たちも、それぞれ独自の思惑を抱えています。
| 人物 | 表向きの目的 | 裏で進めていたこと |
|---|---|---|
| マカオ・パク | 太陽の涙の強奪・売却 | ウェイ・ホンへの復讐 |
| ポパイ | 計画への参加 | 偽物を利用した横取り |
| ペプシ | 金庫破り | ポパイとともにダイヤのすり替えを計画 |
| チェン | ダイヤ強奪への参加 | ティファニーの現金を狙う |
| ジュリー | 金庫破り | ウェイ・ホンを追う潜入捜査官 |
| イェニコール | チームの侵入担当 | 最終的には自分の利益を優先 |
[出典2・3]
※上表は劇中で判明する行動を簡潔に整理したものです。各人物の心理をすべて確定するものではありません。
こうして見ると、そもそも今回のチームには、全員で協力して報酬を分け合おうという強固な信頼関係がありません。
マカオ・パク自身も、そのことを十分理解していた可能性があります。
本当のダイヤの保管場所まで全員に教えてしまえば、仲間による横取りや計画変更が起こる危険性も高まります。
ただし、彼が仲間の逮捕や死亡まで意図していたと断定できる材料は、今回の調査では確認できませんでした。
彼が計画を隠していたことと、仲間全員を犠牲にするつもりだったことは、分けて考える必要があります。
なぜ太陽の涙の偽物をウェイ・ホンに差し出したのか?
マカオ・パクの行動で、もう一つ理解しにくいのが、ウェイ・ホンとの直接取引です。
彼は太陽の涙を手に入れたあと、韓国の釜山でウェイ・ホンと取引する段取りを整えます。
しかし、取引の場では本物のダイヤが失われ、偽物が登場することになります。
ここには、少し注意して見なければならない点があります。
偽物を用意した人物と、復讐を計画した人物は同じではない
劇中には、複数の偽物の太陽の涙が登場します。
まず、ポパイとペプシは本物を横取りするため、事前に偽物を用意していました。
そして終盤、イェニコールもマカオ・パクの隠した本物のダイヤを発見すると、自分の持つ偽物とすり替えています。
その後、ポパイはイェニコールから受け取ったダイヤを持ち逃げしますが、それも偽物だったことが判明します。[出典3]
したがって、マカオ・パクがウェイ・ホンを欺くため、最初から偽物を渡す計画だったと断定するのは正確ではありません。
むしろ、彼の本来の目的と、仲間たちによるダイヤのすり替えを分けて考える必要があります。
マカオ・パクが欲しかったのは、ウェイ・ホン本人との接触だった
では、なぜ彼は危険なウェイ・ホンとの直接取引にこだわったのでしょうか。
その答えは、幼少期の出来事にあります。
ウェイ・ホンは、太陽の涙をめぐる取引の中でマカオ・パクの父親を殺害した人物でした。
そのため、マカオ・パクにとって、太陽の涙は単なる高額な宝石ではありません。
父親を失った事件そのものを象徴する存在だったと考えられます。[出典3]
彼がウェイ・ホンを直接呼び出したのも、ダイヤを高く売りたいという理由だけでは説明できません。
復讐相手を自分の目の前に引きずり出すことに、大きな意味があったのではないでしょうか。
なぜ自分でウェイ・ホンを殺そうとしなかったのか?
もう一段踏み込むと、興味深い疑問が浮かびます。
マカオ・パクほど計画性の高い人物なら、もっと安全な方法でウェイ・ホンを罠にはめることもできたのではないでしょうか。
実際、終盤の取引現場には警察も集結しており、ウェイ・ホンを追っていたジュリーも事件に関与しています。
ただし、マカオ・パクが警察とどの程度まで事前に連携していたのか、あるいはウェイ・ホンを誰の手で倒すつもりだったのかについては、公開資料から明確に断定できません。
筆者としては、彼が求めていたのは単純な殺害行為ではなく、ウェイ・ホンに自らの存在を認識させ、過去の事件に決着をつけることだった可能性があると考えます。
もっとも、復讐のために他人を巻き込み、自らも命を危険にさらすという選択は、合理的な犯罪計画とは言い難いものです。
ここには、冷静なプランナーとしてのマカオ・パクと、父親を失った過去から抜け出せない一人の人間としてのマカオ・パクが同居しているように見えます。
なぜマカオ・パクはポパイやチェンを計画に誘ったのか?
今回の強奪計画では、マカオ・パクが過去に因縁のある人物を再び仲間に加えていることも気になります。
特にポパイは、4年前の事件の真相を考えると、普通なら再び仕事をしたくない相手のはずです。
ポパイは、かつてマカオ・パクを裏切った張本人だった
4年前、マカオ・パク、ポパイ、ペプシは金塊強奪を実行しました。
ところが逃走中、マカオ・パクを支えていたワイヤーが切断され、彼は仲間たちの前から姿を消してしまいます。
ペプシは彼の身を案じたことで監視カメラに姿を捉えられ、結果的に逮捕されました。
その後、マカオ・パクが金塊を持ったまま姿を消したため、ペプシは彼に裏切られたと思い込んでいたのです。
しかし、実際にワイヤーを切断したのはポパイでした。

引用 https://ameblo.jp/kazumi-si/entry-11271118728.html
ポパイもペプシを愛しており、恋敵であるマカオ・パクを排除しようとしたことが、過去の裏切りにつながっていました。[出典2・3]
それでもポパイを誘ったのはなぜか?
ここは劇中でも、すべての理由が説明されているわけではありません。
ただし、ポパイはワイヤーを使った侵入・脱出の専門家であり、チームを率いる経験も持っています。
マカオ・パクが計画を実行するうえで、彼の技術や人脈を必要としていたことは十分に考えられます。[出典4]
もう一つ、筆者が注目したいのは、マカオ・パクがポパイの裏切りを知っていたという点です。
もしポパイを信用していなかったのなら、最初から本当の強奪計画を教えず、必要な仕事だけを担当させることにも説明がつきます。
言い換えれば、マカオ・パクはポパイを許したから再び誘ったのではなく、信用できないことを承知したうえで、その能力を利用しようとしたのかもしれません。
ただし、ポパイへの復讐自体が今回の計画の主目的だったとまでは断定できません。
チェンを誘った理由には、さらに深い意味がある?
香港側のリーダーであるチェンは、マカオ・パクの過去を理解するうえでも重要な人物です。
劇中の回想では、若き日のチェンとマカオ・パクの父親が太陽の涙をめぐる取引に関わっていたことが描かれます。
その取引で父親はウェイ・ホンに殺害され、幼いマカオ・パクは事件を目撃していました。[出典3]
つまり、チェンは単に香港で活動する優秀な泥棒というだけではなく、マカオ・パクの復讐の原点に接点を持つ人物でもあるのです。
では、なぜそんな人物を再び誘ったのでしょうか。
考えられるのは、チェンがウェイ・ホンの危険性や、太陽の涙の過去を知っている数少ない人物だったから、という解釈です。
また、香港側の泥棒たちをまとめる人脈や経験も、マカオで大規模な計画を実行するうえで役立ったはずです。
ただし、チェンを誘った本当の理由が、過去の事件の証人として必要だったからなのか、単純に実務能力を買ったからなのかは、今回確認した監督インタビューでも明言されていません。
両方の要素が重なっていた可能性はありますが、ここは考察の範囲にとどめるべきでしょう。
マカオ・パクはペプシをずっと愛していた?4年前の誤解と現在の関係
本作を単なる強奪映画として観るか、マカオ・パクの物語として観るかを分けるのが、ペプシとの関係です。
マカオ・パクとペプシは、かつて仕事上のパートナーであり、恋人同士でもありました。[出典2]
しかし、4年前の金塊強奪事件によって、二人の関係は断絶します。
マカオ・パクは、ペプシに裏切られたと思っていた?
4年前の事件でワイヤーを切断されたマカオ・パクは、仲間たちの前から姿を消しました。
その後、彼はポパイとペプシの姿を目撃しますが、二人がキスをしている場面を見てしまいます。
しかし、ペプシにとって、その行動はマカオ・パクに裏切られたと思い込んだ状況の中で起きたものでした。
一方、マカオ・パクはその事情を理解できず、二人の関係を誤解したまま去ってしまいます。[出典3]
つまり、二人の別離は、単純にどちらか一方の愛情が冷めたことで起きたものではありません。
ポパイによる裏切りと、互いの状況を知らないまま生まれた誤解が重なっていたのです。
ペプシを水中から救出した行動は、愛情の証拠なのか?
今回の映画で、マカオ・パクの本心が最も分かりやすく表れるのが、ペプシの救出場面です。
強奪計画が失敗したあと、ペプシは警察車両ごと水中に転落し、手錠をかけられた状態で取り残されます。
その彼女を救ったのが、ほかでもないマカオ・パクでした。[出典3]
この時点で彼は、太陽の涙を手に入れるという目的をすでに達成しています。
それにもかかわらず、危険を冒してペプシを助けに戻ってきたわけです。
この行動は、彼女を単なる仕事仲間として見ていなかったことを示す、非常に重要な場面ではないでしょうか。
もちろん、救出行為だけで恋愛感情を証明することはできません。
しかし、後半の展開と組み合わせると、マカオ・パクがペプシを今も特別な存在として考えていたという解釈には、十分な説得力があります。
なぜ4年前の金塊をペプシに渡したのか?
終盤、ペプシのもとには、4年前の強奪事件に関係する金塊が届けられます。
それを用意したのはマカオ・パクでした。[出典3]
この行動には、少なくとも二通りの意味が考えられます。
一つは、ペプシに対する償いです。
マカオ・パク自身がワイヤーを切ったわけではないとしても、結果的に彼女は逮捕され、長い時間を失っています。
もう一つは、彼が金塊そのものに執着していなかったことを示す行動です。
もし金儲けだけが目的なら、過去の金塊をペプシに渡す必要はありません。
彼にとって重要だったのは、金塊よりも、彼女との間に残っていた誤解や負い目だったのかもしれません。
二人は最後に復縁したのか?
映画のラストでは、イェニコールが本物の太陽の涙を持って香港に滞在しています。
そこへペプシが現れ、宝石の買い手を紹介するような形でイェニコールに接触します。
しかし、イェニコールが席を外している間に、マカオ・パクが再びダイヤを手に入れてしまいます。
そして、彼はペプシに連絡し、再会を示唆します。[出典3]
二人が正式に復縁したことまで、劇中で明確に描かれているわけではありません。
ただ、4年前の誤解が解消され、再び同じ方向を向こうとしていることを感じさせる結末です。
筆者としては、マカオ・パクにとって太陽の涙の奪還は過去との決着であり、ペプシとの再会は未来を取り戻すための行動だったと解釈しています。
マカオ・パクは冷酷な男なのか?不可解な行動を比較してみる
ここまでの行動を振り返ると、マカオ・パクには矛盾して見える部分が数多くあります。
仲間を利用する一方で、ペプシのためには危険を冒す。
金儲けに興味がないように見えながら、太陽の涙には執着する。
冷静に犯罪計画を組み立てる一方で、ウェイ・ホンとの対決では感情を優先する。
これらを比較すると、彼の人物像がより鮮明になります。
| 行動 | 冷酷に見える側面 | 別の角度からの解釈 |
|---|---|---|
| 仲間に偽の計画を実行させる | 仲間を利用している | 復讐のために本当の目的を隠していた |
| ポパイを再び誘う | 裏切り者まで利用する | 能力と感情を切り離して判断していた |
| 太陽の涙を独占する | 報酬を独り占めする | 宝石そのものが復讐の象徴だった |
| ウェイ・ホンを呼び出す | 危険を顧みない | 父親の死に決着をつけたかった |
| ペプシを救出する | 計画上は不要な行動 | 彼女への愛情が残っていた |
| 金塊をペプシに渡す | 利益を放棄する | 過去の誤解や負い目を清算する |
※右側の解釈には、劇中の行動を踏まえた筆者の考察を含みます。
こうして見ると、マカオ・パクは誰に対しても冷酷な人物というわけではなさそうです。
むしろ、目的を達成するためには他人を利用することも厭わない一方、自分が本当に大切にしている相手には、極端なほど感情的な選択をする人物として描かれているように思えます。
チェ・ドンフン監督は、なぜマカオ・パクを分かりにくい人物にしたのか?
実は、マカオ・パクの人物像については、監督自身の発言にも興味深いヒントがあります。
2012年7月19日付の韓国メディアOSENのインタビューで、チェ・ドンフン監督は、キム・ユンソクが演じるマカオ・パクについて、何を考えているのか分からない秘密の多い人物であり、それを演じる難しさに言及しています。[出典5]
また、海外メディアCineAsiaのインタビューでも、ポパイやイェニコールは考えていることを比較的理解しやすい一方、マカオ・パクとペプシは理解するのが難しい人物だと説明しています。[出典6]
つまり、マカオ・パクの不可解さは、偶然生まれたものではなく、制作段階から意識されていた人物造形だったと考えられます。
さらに、韓国の映画専門誌Cine21のインタビューでは、監督はキム・ユンソクをマカオ・パク役として想定したことで、その後の脚本構想が進みやすくなったと語っています。[出典4]
これは、マカオ・パクが単に大勢の泥棒たちを集めるための便利なリーダーではなく、作品の中心に置かれた人物だったことを示す重要な証言です。
本作を再鑑賞する際には、誰がダイヤを盗むのかという点だけでなく、マカオ・パクがどの場面で感情を表に出し、どの場面で本心を隠しているのかに注目すると、違った面白さが見えてくるのではないでしょうか。
まとめ|マカオ・パクは復讐と愛情の間で動いていた人物だった
映画『10人の泥棒たち』のマカオ・パクは、一見すると仲間を利用する冷酷な犯罪者です。
しかし、彼の行動を時系列で整理すると、金銭目的だけでは説明できない部分が浮かび上がります。
彼が太陽の涙を狙った背景には、父親を殺害したウェイ・ホンへの復讐がありました。
また、かつて自分を裏切ったポパイを再び計画に参加させたことにも、犯罪を成功させるために感情と実務を切り離そうとする、彼なりの判断があったのかもしれません。
その一方で、ペプシに対しては違います。
水中からの救出や、4年前の金塊を届けた行動には、彼女への特別な思いが残っていたことを感じさせます。
マカオ・パクは、復讐のためなら仲間を欺くこともできるのに、愛する女性を完全に切り捨てることはできなかった人物なのではないでしょうか。
太陽の涙をめぐる争奪戦が終わったあと、彼が最後に取り戻そうとしたのは、ダイヤモンド以上に大切なものだったのかもしれません。



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